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第32回アセアン紙パルプ産業会議/アセアン会議とアジア会議の統合が提案


ASEAN10ヵ国のうちインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム5ヵ国の製紙産業団体が中心となって構成しているFAPPI(Federation of ASEAN Pulp & Paper Industries)は2015年11月4〜6日の3日間、第32回アセアン紙パルプ産業会議をタイ・バンコクで開催した。日本は04年インドネシア開催の第26回会議より韓国・台湾とともに参加。今回、中国、ミャンマーも加わって約180名が一堂に会し、「持続可能性の実現に向けた協力(Collaboration toward Sustainability)」をメインテーマに、各国代表のカントリーレポートのほか、古紙リサイクル、森林認証、水管理などについての情報交換・意見交換が行われた。
なお、日本からは日本製紙2名、レンゴー3名、日本製紙連合会の事務局3名(羽山正孝理事長ほか)がそれぞれ参加した。
アセアン紙パルプ産業会議は日本にとっても東南アジア地域における製紙業界の発展動向や課題、今後の方向性などを知るうえで重要な意味をもっており、またどのような貢献ができるか検討していくためにも積極的な関与が必要とされる会議である。会期初日の4日に事務局会議が開かれ、翌5日の本会議では、
① 各国代表によるカントリーレポート
② 基調講演(タイ・SCGペーパー社、RISI社)、各国代表によるケーススタディ発表(古紙リサイクル、森林認証、水管理)

が行われた。それらの内容の概略を要約すると以下のようになる。
本会議
ASEAN各国の経済は総じて堅調な成長を維持し、紙・板紙の生産・消費も拡大している。対照的に、日本、韓国、台湾では2015年1〜6月期の生産・消費が前年同期から減少しており、明暗がはっきり分かれた恰好である。またASEAN諸国をはじめ多くの国が、自国の経済に与える中国経済の影響の大きさを指摘しており、今後ともその動向を注視している旨の発言があった。
また、森林問題、気候変動問題などの環境問題に対しASEAN諸国でも関心が高まっていることを背景に、紙パルプ産業で省エネルギーや持続可能な森林経営、省水・排水処理の改善などへの取組みが拡大している。
日本からは紙・板紙の需要動向、紙パルプ産業における事業多角化の動き、古紙回収リサイクルに関する取組み、持続可能な森林経営および海外植林の取組みなどが報告された。2016年は日本がホスト国となって第5回持続可能な発展のためのアジア紙パルプ産業会議を開催するが、その日程や開催地などについても発表された。
事務局会議
本会議前日の4日に催された事務局会議ではタイ側から、アセアン紙パルプ産業会議と、日本、中国、韓国、台湾が中心となって開催しているアジア紙パルプ産業会議との統合についての提案が行われた。この提案については、今後各団体において会員の意見を聞きながら団体間で相互に意見交換を行い、16年日本開催のアジア紙パルプ産業会議までに方向性を決めることとなった。
次に、発表された主な項目の内容について若干詳しく紹介しよう。

カントリーレポート>
 堅調なASEAN各国の紙・板紙需要

台 湾
2015年のGDP成長率は1.6%の見通し(前年は3.8%)である。世界経済、とくに中国経済の成長鈍化により輸出が減少し、台湾経済に深刻な影響を与えている。台湾では大気汚染物質排出基準や排水基準などの環境規制が強化されており、製紙会社はその対応が課題となっている。また、競争力の低い工場の閉鎖が続いており、台湾製紙連合会の会員企業合計の工場数は11年95工場に対し15年は82工場まで減少した。
韓 国
2015年1〜6月の紙・板紙国内生産は前年同期比2%減の580万tで、段ボール原紙以外のすべての品種が前年同期比マイナスとなった。とくに、新聞用紙、印刷・筆記用紙はそれぞれ9.7%、4.5%の減少。それに対し、通貨ウォン高の影響により1〜6月期の紙・板紙輸入は2.9%の増で50万tを超える水準になった。電子媒体の普及による印刷・筆記用紙など紙分野の消費減少への対応策としては、韓国製紙産業が13年から“I LOVE PAPER” と題した紙媒体をPRするキャンペーンを印刷などの関連産業とともに実施している。今後については、これに加えて紙製パッケージング材のPRキャンペーンも実施を検討中である。
マレーシア
2015年のGDPは米国および中国向けの輸出の拡大や、観光産業、サービス業の成長に牽引され4.5〜5.5%の成長率となる見通し。一方、個人消費については15年4月に導入された消費税(税率6%)によって低迷している。紙・板紙消費量は200万tの見通しで、通貨安の影響により輸入紙が減少し国内品のシェアが拡大している。古紙需要は国内回収量を上回る水準で、国内の供給不足を賄うため古紙輸入を行わざるを得ない状態だが、通貨安による輸入価格上昇に直面している。国内製紙産業の今後の懸念材料としては、政府がエネルギー補助金の段階的廃止を行うとしており、それによるエネルギーコストの上昇があげられている。
フィリピン
国内紙・板紙市場の半分以上のシェアを輸入紙が占めている(2014年は国内需要184万tのうち輸入紙が100万t。15年1〜6月期は98万tのうち57万t)。フィリピン製紙産業は「製紙産業のロードマップ2014〜2022」を策定。そのなかで、設備の近代化、古紙回収率を2022年までに現在の50〜55%から65〜70%へ高めること、同国ミンダナオ島での植林木を原料とする年産30万t規模のKP工場建設といった提言を行っている。
タ イ
2014年の紙・板紙消費は425万tで、今後3年間は年率3%のペースで増加し、17年には462万tになる見込みである。タイでは、同じ機能の他の製品と比較し環境負荷の少ないことが証明された製品に対して環境ラベルを付与する制度(タイ・グリーンラベル)が導入されている。紙製品も同制度の対象となっており、現在国内13社が同ラベルを取得している。なお、16年5月には紙パルプ産業を対象とする排水処理基準が導入される予定である。
ベトナム
2015年1〜6月期の紙・板紙生産・消費は生産が前年同期日12.9%増の100万t、消費が同13.3%増の169万t。生産が国内需要を大きく下回り、輸入品が大きなシェアを占めている。とくに段ボール原紙、印刷・筆記用紙。今後、段ボール原紙分野において、16年にビナクラフト社(25万tマシン)、18年にアンビンペーパー社(38万tマシン)が新増設を予定している。製紙産業は国の開発計画のなかで推進産業には位置づけられておらず、金融などの面で優遇措置が受けられない。
ミャンマー
国内の製紙工場は約70工場。国内生産量は推定で約20万tで、そのうち段ボール原紙などの板紙が16万tを占める。ミャンマーでは工業化が始まったばかりであり、紙パルプ産業についても大きな発展が期待されている。外国からの投資は大歓迎である。

<基調講演>
 5ヵ国で2025年に2,970万t

持続可能な事業展開・自主的な活動(タイ・SCGペーパー社)
紙パルプ産業が取り組むべき課題として、変動しやすい市場環境、コスト、競争、為替変動、コンプライアンスなど、従来からの課題に加え、有限な資源の枯渇、消費者からのよりグリーンな企業活動や目に見えるガバナンス、社会的責任への取組みといった要求、労働環境の整備など、持続可能性に向けた課題への対応があげられる。これらは1992年の地球環境サミット以降、2000年のミレニアム開発目標や、先ごろ決定された国連の持続可能な開発目標などで具体的内容が制定されている。
これらの目標達成のため活動する民間企業の国際的組織としてSCG社が加盟する「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」を紹介。WBCSDのなかに紙パルプ・木材業界のグループであるFSG(Forest Solution Group)があり、SCGやインターナショナルペーパー、UPM、ストラエンソなど13社により構成される。FSGでは、森林や紙パルプ・木材製品が低炭素社会の実現に果たす役割に関して行っている活動を報告した。
ASEAN地域を中心としたアジアの板紙市場の展望(RISI社) 2014年の世界における段ボール原紙需要は1億5,200万tで、うちアジア地域の需要は47%にあたる7,200万tを占め、またアジア地域の需要の65%は中国が占める。白板紙については、中国では供給過剰が解消せず今後も輸出が拡大する。一方、ASEAN主要5ヵ国(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)の板紙生産は、今後年率5%で拡大し、2025年には約2,100万tになると予想。またグラフィック用紙(新聞用紙+印刷・筆記用紙)も2%のペースで拡大し、2025年には約870万tになる見通し。

<ケーススタディ>
 古紙・環境で期待される行政の支援策

古紙リサイクル発展の取組み
日本から国内における古紙リサイクル発展の歴史ついて紹介。また2012年から14年の3年間、タイ、マレーシア、ベトナムを対象に日本の古紙回収リサイクルに関する研修会を実施したことを受け、同3ヵ国が自国における古紙リサイクル向上の取組みについて進展状況を紹介した。
マレーシアでは、これまで古紙回収は民間主導であったが、政府が15年9月に廃棄物の分別回収に関する法律を施行するなど、政府の役割が拡大している。その理由は、日本で行った研修会に参加した政府職員が古紙回収に果たす行政の重要性を認識したことである。タイでは現在政府が3R政策の策定を進めており、タイ紙パルプ産業連合会もその策定に協力している。また古紙回収率については、11年が51%であったのに対し14年には59%に上昇したことが紹介された。一方、ベトナムからは、製紙業界が政府に対し古紙回収リサイクル発展に向けた政策導入を求めているが、その必要性を認識させるに至っていないこと、また政府は製紙産業に対し全般的に環境負荷が高いという認識をもっていることが紹介された。
森林認証の取組み
日本からは、製紙産業の持続可能な森林経営や海外植林の取組み、そして日本独自の森林認証制度である「緑の循環認証会議」(SGEC)の概要についての紹介が行われた。インドネシアからは、2009年に制定された同国から輸出される木材・紙製品の合法性とトレーサビリティを保証する木材合法証明システム(SVLK)について紹介。現在、国内製紙会社23社がSVLK認証を取得している。SVLK導入によって、違法伐採の減少、市場からの信頼向上による林産品の輸出増加がある一方、企業にとっては認証取得コストの高さや煩雑な認証取得手続きが重荷となっている。そのほか、国内各製紙メーカーは森林管理・伐採に関する国内の法令は遵守していることを強調した。
タイからの発表では、2大森林認証制度の1つであるFSCの問題点として認証取得コストの高さをあげ、これがとくに小規模林業家による認証取得の阻害要因となっていることを指摘。FSCに代わる認証制度の選択肢として、PEFCと相互承認を行うタイ独自の森林認証制度の設立へ向け、タイ森林認証会議(TFCC)がタイ紙パルプ産業連合会やタイ政府、NGOなどの支援によって発足したことが紹介された。
紙パルプ産業における水管理
インドネシアから企業のサステナビリティ(環境管理、省資源、地域社会の発展)のパフォーマンスを評価する「PROPER」制度が紹介され、またタイからはユナイテッドペーパー社、ベトナムからはビナクラフト社からそれぞれ水利用削減の取組みが紹介された。

(紙パルプ技術タイムス2016年1月号)

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